
2026年6月18日、令和8年度のNPO法人東大阪地域活性化支援機構・定例総会にて、有限会社 Gyo Lighthouse 代表取締役 笠原曉氏をお迎えし、「今そこにある危機にどう対処しますか?― 東大阪地域活性の未来戦略 ―」と題した特別講演が開催されました。
「儲かっていても、会社は消える」
――東大阪で聞いた、危機との向き合い方
講師は笠原暁氏。ロダン21との縁は、実に15年以上前にさかのぼるそうです。
全国のものづくり・中小企業支援の現場を歩いてこられた方が、今、何を見て、何を感じているのか。
会場には、東大阪でものづくりに携わる経営者の方々が集まりました。
1日に210社、静かに消えている
講演のスクリーンに映し出されたのは、「黒字廃業――儲かっていても、会社は消える」という言葉。
2025年、倒産と休廃業・解散を合わせた「退出企業」は約7.8万社。1日あたりにすると、210社以上が市場から消えている計算になるそうです。(帝国データバンク調べ)
倒産は12年ぶりに年間1万件を超え、休廃業・解散はその6.6倍。
会社をたたむ経営者の約5割は、直前期が黒字だったといいます。(東京商工リサーチ調べ)
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「儲かっているのに、なぜ会社が消えるのか」。
広島県では、大手自動車メーカーの一次下請け企業約250社が、ある期をもって一斉に契約を打ち切られたという事例も紹介されました。
EVへの転換に踏み出すでもなく、黒字のまま廃業し、土地をマンションや駐車場に変えていく。
「たった400キロ先で起きていることです」という一言に、会場の空気が少し変わったのがわかりました。
東大阪も例外ではありません。
市内の製造業事業所数は、ピーク時からほぼ半減。
「うちはまだ大丈夫」と言われてきた東大阪ものづくり神話も、少しずつ揺らぎ始めているそうです。
系列を持たず、横請け・仲間請けで支え合ってきた東大阪の強みは、裏を返せば、どこか一社が欠けたときの連鎖の弱さでもあります。

「何屋さんですか」と聞かれたら
数字の話が一区切りついたところで、笠原氏はこう切り出しました。
「今日ご参加いただいている方は、できるだけ頭を柔らかくしてください」
会社を続けるか、たたむか、それを自分で選べるのは、まだ余力のある今のうちだけ。
その上でどうするか、という話です。事業承継の準備を始めること。
取引先を分散し、財務を見える化して「売れる会社」に磨き上げておくこと。
付加価値で勝負すること。
そしてもうひとつ、講演の中心にあったのが「ソーシャルビジネスへの転換」という考え方でした。
人口が減っていく国で、これまでどおり売上を右肩上がりに伸ばし続けようとすると、どこかで無理が生じる。
安さでは世界と戦えず、技術だけでも、営業力だけでも生き残れない時代。
だからこそ、「自社の事業を通じて、社会の困りごとをどう解決するか」という視点に立ち戻ってみませんか、
という提案です。
アウトドアブランドのパタゴニアが例に挙がりました。
製品は決して安くありません。
それでも選ばれ続けているのは、適正な価格で仕入れ、得た利益を環境保全に還元しているから。
「値段が高いのに、買った人が満足している」という循環をつくっている会社だ、と。
電気屋さんが、地域の居場所になるまで
座談会の場では、実際にこの転換を体現してきた方のお話も聞くことができました。
A社のY様です。今年で創業50周年を迎えるこの会社は、もともと家電販売の商店でした。
20年前、本業が立ち行かなくなった時期があったといいます。
手元に残っていたのは、地元のお客様との信頼関係。
そこから、建築、福祉、不動産、そして高齢者や子どもたちが集まれる場づくりへと、少しずつ事業の幅を広げてこられました。
「電気屋だから電気だけ」ではなく、「お客様と家族のような関わりを持つ」ことを軸に据え直したら、自然と事業が広がっていった、とY様は振り返ります。
今では、地域でその名を知らない人がいないというほどの存在になっているそうです。
「何屋さんですか」と聞かれたときの答えは、ひとつでなくていい。本業を土台にしながら、地域の困りごとに向き合っていった結果として、事業の姿が少しずつ変わっていく。そんな実例に、会場からもうなずく方が何人もいらっしゃいました。
縮まない市場、という選択肢
国内だけで考えると、どうしても縮んでいく話になりがちです。
ただ、講演では「縮まない市場に出る」という選択肢も紹介されました。
国内の人口は減っていく一方、米国は先進国の中でも人口・経済ともに伸び続けている数少ない市場だといいます。
紹介された支援の形は、いきなり大きな投資をするのではなく、2段階に分けて進めるというものでした。
まずは輸出と現地でのPRで「売れるかどうか」を小さく検証し、手応えを掴んでから現地生産に移す。
焦らず、確かめながら進める設計です。
紹介された事例のひとつは、ニュージャージー州で深刻化する都市ゴミや災害がれきの処理需要に着目した炭化炉のケース。
同州では、有害物質PFASをめぐって化学メーカー各社に対する訴訟が起き、土壌の原状回復が社会問題になっているといいます。
日本の中小企業が持つ炭化技術が、その解決の担い手になり得る、という話でした。
もうひとつは、兵庫県内の注文住宅メーカーの事例です。
日本では住宅を買うと資産価値は下がっていきますが、米国では住宅が「資産」として値上がりし、それを担保に次の展開へとつなげていける文化がある。
日本の住宅の品質が、そのまま強みになるというお話でした。
いずれも、特別な技術を新しく生み出すのではなく、すでに手元にあるものを、必要としている場所に届け直すという点で、ソーシャルビジネスの話ともつながっているように感じました。

座談会――それぞれの持ち場から
講演のあとは、座談会の時間です。今回は20名の会員・関係者にご参加いただき、それぞれの事業を一言ずつご紹介いただきました。
東大阪市役所ものづくり支援室の方からは、「自社の強みと、市が抱える課題がマッチングするかもしれない」という視点での相談窓口についてご案内をいただきました。
フィギュア・アニメ関連の樹脂製品を手がける企業の方からは、海外のファン向けイベントでの購買力の高さに驚いたという感想が。
AI開発に携わる企業の方からは、言語の壁を越える調査支援など、自社ならではの関わり方についての発言もありました。
一方的に話を聞くだけでなく、「自分の会社なら、どう当てはまるだろうか」を参加者同士で考え合う時間になっていたように思います。
終わりに
「危機」という言葉は、ともすれば不安をあおるだけの言葉になりがちです。
けれど今回の講演会で感じたのは、危機を知ることは、次の一手を考えるための出発点になる、ということでした。
そしてその一手は、必ずしも新しい設備や大きな投資を必要とするものではなく、「自分たちは何屋さんなのか」を、もう一度問い直すことから始められるのかもしれません。
東大阪地域活性化支援機構では、これからも経営者の方々が孤立せず、仲間とともに考え、前に進んでいける場をつくってまいります。
当機構の活動やイベントにご関心をお持ちの方は、下記までお気軽にご連絡ください。